志ネットワーク代表/財団法人「松下政経塾」元塾頭 上甲晃 氏より
私が松下幸之助に仕えて一番印象的だったのは、人の話を聴くのが非常にうまかった
ことです。まさに聴く天才でした。耳も僕の倍くらいの大きさがありました。
最大の特徴は誰の話を聴く時もじっと相手の目を見て、最後まで聴き続けられるということ
です。松下電器には松下幸之助に話を聴いてもらって涙を流したという社員もいます。
「最近元気がないけどどうした?」と親身になって社長が話を聴いてくれたら涙が出た
というんです。「話を聴く」って当たり前のように思いますが、「聴く力」は偉大な力だな
と思いました。
聴き方教室がない!
そう思って街を歩きますと、「話し方教室」というのはたくさんありますが、「聴き方教室」
はないですね。営業の本でも、どんなふうに喋ったらモノが売れるかについて書かれた
「セールストーク」の本はたくさんありますが、「セールスヒアリング」なんて本はありません。
なぜか。ある「話し方教室」のポスターを見たら「人前で恥をかかないために」と書いて
ありました。つまり、人前でスピーチをする時、ドキドキします。緊張して上がってしまいます。
話が下手だと恥ずかしいんです。話し方はテクニックですから教えられます。
「間を空けなさい」とか「抑揚を付けなさい」とか。話し方のうまさは、その人の人間性とは
関係ありません。話が上手な人が人間的に優れているということはないんです。
一方、聴き方は下手でも恥ずかしくありません。相手の目を見てずっと話を聴いている
ふりをしていても、心の中で「この講演会が終わるのは4時か。まだあの店は開いてないな」
など、他のことを考えることだってできます。すると「この人、上の空で聞いてるな」とか
「心ここにあらずだな」と感じ取る話し手もいます。
聴く力は人間力
聴く力は心の力です。こうして私の話を聴いている皆さんの聴く姿勢は皆さんの心の姿勢そのものです。心がふんぞり返っている人は姿勢もふんぞり返って聴いています。
謙虚な心なのにふんぞり返って聴いている人は絶対いません。
素直に相手を受け入れようという心の働きがなければ人の話なんて聴けません。
聴く力を磨くことは自分の人間としての魅力を高める最も身近な努力だし、「話を聴く」
ということは一番身近な「素直の実践」であり、目の前の人を喜ばせる最大の方法なのです。
なぜ松下幸之助に聴く耳があったか。それは学歴がなかったからです。
「僕は学校に行かなかったから何も知らなかった。おかげで誰にでも『教えてください』
と素直に聴く耳を持つことができた。そして、何を聴いても『ああ、なるほどな』と感心する
ことができた。これが経営者としてやってこられた最大の理由かな」とおっしゃっていました。
魅力ある人とは?
経営は知識ではないんですね。人間力なんです。
人間力とは、「人間としての魅力」のことです。
その最初に来るのが「聴く耳を持っていること」だと私は思っています。
それを普段の生活の中で実践していくことで初めて「聴く力」は身に付くんです。
私の持論は「真理は平凡の中にある」ということです。
この文章を読んでいて、反省することばかりです。
自分は、子どもたちや先生方の話を「真剣に聴いていただろうか?」
本当に「聴くことは、その人の人間力の表れ!」だと思います。
いい学校を創りたかったら、いい子どもたちを育てたかったら
「人間としての魅力」「人間力」を我々が磨かなければ!!
ともに!頑張りましょう!!