魂の編集長 水谷謹人氏より
昨年末、漫才日本一を競うM-1グランプリに、かつてない芸風のコンビが登場した。ボケ役のシュウペイとツッコミ役の松陰寺太勇のコンビ「ぺこぱ」である。成績は3位に終わったが、審査員から「新しい漫才」「平和的で気持ちよかった」と高く評価されていた。
何が新しくて平和的なのかと言うと、従来の漫才では、ボケ役のセリフに対して、ツッコミ役は「何言うてんねん」とか「いい加減にせい」など否定的に返していたが、松陰寺は相方から何を言われても、何をされても、肯定的に返していくのだ。
タクシー運転手役のシュウペイが「ブーン」と言いながらやってくる。松陰寺が「ヘイ、タクシー」と言うと、タクシーは「ドーン」と松陰寺にぶつかる。松陰寺は「どこ見て運転してんだよ」と言った後、「そう言えてる俺は無事でよかった。無事が何より」と喜ぶ。
二度目のシーン。再びシュウペイが「ブーン」と言いながらやってくる。「ヘイ、タクシー」と手を挙げている松陰寺に「ドーン」とぶつかる。松陰寺は言う。「二度もぶつかったってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない。誰かを責めるのはやめよう」
言ったことが否定されずに受け止めてもらえると気持ちがいい。審査員が言った「平和的な漫才」とはこういうことなのだろう。
その逆はどうだろうか。
作家の寮美千子さんは、その日、明治時代に建てられたレンガ造りの施設で開催された展示会に出掛けた。そこで1枚の美しい水彩画に魅せられた。一つひとつの色が微妙に違う。寮さんは思った。「几帳面すぎる。こんなに細かい神経の持ち主だったら、世間にいた時、さぞかし苦しかったのではないか」
それは奈良少年刑務所で開催されていた矯正展でのことだった。
「振り返りまた振り返る遠花火」という俳句にも寮さんは胸が締めつけられた。
「なんと端正な、抒情的な句なんだろう。この子は鉄格子の窓から花火を見たのだろうか」と寮さんは思った。
教官が声を掛けてきた。「ここにいる子たちはおとなしかったり、引っ込み思案な子たちがほとんどです」
寮さんは、自分は作家であり、詩を作ったり朗読をする教室をやってきたことを話し、「お手伝いできることがあればやります」と言って教官に名刺を渡した。
この出会いが寮さんの人生を変えた。翌年の2007年7月、「絵本や詩を使った教室を開きたい。ぜひ講師に」と、奈良少年刑務所から電話があったのだ。
実はその年の6月、100年ぶりに監獄法が改正された。それまでは社会復帰後のために実習でいろいろな技術を教えてきたが、法改正により職業訓練が困難な軽度知的障がい者や精神疾患のある受刑者のために情緒的な教育を施すことができるようになった。その講師を依頼されたのだった。
少年刑務所は、保護施設の少年院と違い、殺人や性犯罪など、刑事事件で実刑判決を受けた未成年の子たちが収監されている。
詳細は寮さんの著書『あふれでたのはやさしさだった』(西日本出版社)に譲るとして、寮さんは最初の授業でアイヌ民族の親子を題材にした絵本『おおかみのこがはしってきて』(ロクリン社)を使った。
受講生の片方が父親役、片方が子ども役になって朗読劇をする。子どもが父親に質問する。父親はどんなことを聞かれてもちゃんと優しく答えてくれる。全員これをやった。全員が最後まで読めた喜びを味わった。「たったこれだけのこと」で、少年たちは自信を獲得したようだった。寮さんは「かすかな自己肯定感が芽生えた」と確信した。
彼らは幼少期から、何を言っても受け止めてもらえない家庭で育った。常に大人から否定され、叱責され、攻撃されてきたという。
だから教官たちは、「否定しない」「注意しない」「指導しない」「ひたすら待つ」など、全承認の場を作っていた。否定されない環境の中で初めて心を開き、少年たちは自ら成長していくというのだ。
「マスコミで目にする凶悪な少年犯罪は社会に表出した最悪の結果だけ」と寮さんは言う。かつては被害者だった少年たち。今日も塀の向こう側で彼らの心に寄り添っている大人がいることに敬意を表したい。
今回の記事を見て、「凶悪な少年犯罪を犯した少年」だけの話ではない!と思いました。
普通に学校に登校している子どもたちも、その子どもたちなりに「承認してほしい!」と
感じながら生活をしている!と考えています。
家庭という形が整っている?家族という形が整っている?だけでは
計り知れない「何か?」を子どもたちなりに抱えて人生を歩んでします。
さまざまな時代の流れの中で「子どもたちに承認欲求が高くなって来ている!」
と感じています。
承認されてきていないのか?
それとも、こちらが思っている以上に「承認されたい」子どもが増えてのか?
どちらにしても「承認されて」「心の隙間を埋められる」
そんな環境で育てたいものです。
心の安定!!
子どもだけでなく、「大人にも言えること」ですね!
よろしくお願いいたします。