魂の編集長 水谷謹人 より
2000を超える講演を取材し、いい話を数多く聴いてきた。各分野の専門家であったり、人生経験豊かな人たちだから、話の中身がいいのは言うまでもない。
しかし「話し方」「伝え方」がうまいかというと、そっちのプロではない。ほとんどの人が「自分なり」の話し方で話す。 それが普通だから、たまに話し方が見事な講師に出会うと、時間を忘れて引き込まれてしまう。学びの時間が「至福の時間」になるのである。
先週号の社説に名前が出ていた㈱アビリティトレーニングの代表・木下晴弘さんもその一人だ。「話し方」のプロではないが、「伝え方」のプロだ。彼の話術は16年間勤めた大手学習塾で鍛えられた。
その塾は生徒の評価で講師がランク付けされ、60%以下は解雇される。木下さんは95%という驚異的な支持率で、勤務6年目を過ぎる頃には講師を指導する立場にもなった。
そんな彼にも言葉でとんでもない失敗をした苦い思い出がある。ある母親と面談した時のことだ。その方の長男が塾の生徒だった。母親は少し過干渉なところがあった。
「…心配なのはわかりますが、大丈夫ですよ。子どもは放っておいても育ちますから」。そう言った瞬間、母親の顔色が変わった。木下さんは「しまった!」と思った。その方の末のお子さんは乳児の時、ちょっと目を離した隙にベッドから落ちて亡くなっていた。そのことを知ってはいたが、言葉が先走ってしまった。
長男は即退塾した。母親に何度も電話をかけたが一切出てもらえなかった。
木下さんは痛感した。「言葉で仕事をする人間は言葉の技術を磨かないといけない」と。
詳細は木下さんの近著『ココロでわかれば、人は 本気 で走り出す!』(ごま書房新社)に譲るとして、その中に手の甲にいくつも生傷を持つ生徒が登場する。傷の訳を聞くと「お母さんがハサミで突っつく」と言った。木下さんは放っておけず母親と面談することにした。その際、「お子さんが赤ちゃんの時の写真を持ってきてください」とお願いした。
写真を眺めながら木下さんは彼が生まれた時のことを聞いていった。母親は目に涙を浮かべ、当時を振り返った。
そして木下さんはこんなお願い事をした。「お母さん、これから彼に接する時は、まずこの写真を30秒間見つめてくれませんか」。母親は声を上げて泣き伏した。その日を境に手の甲の傷は消えた。
生徒を叱る時は、相手の魂に語り掛けることを心掛けた。いつも宿題を忘れ、授業中も私語をやめない生徒がいた。木下さんは彼とこんな会話をした。
「A君、今何時だ?」「8時です」「お父さんはこの時間、家にいる?」「いいえ、たぶん会社です」「何してる?」「仕事です」「何のために?」「お金を稼ぐためです」「そのお金で何する?」「ご飯を食べたり服を買ったり」「この塾の月謝は?」「それも」「お父さんは今君がこの塾に来るために働いているんだね」「はい」「君は今何をしているんだ」「…」
まだ新人講師だった頃、入試1週間前になってもやる気のない生徒に「おまえのような奴は塾なんかやめてしまえ」と言ってしまったことがある。生徒は泣き出した。「言い過ぎた。すまん」と謝っても収まらず、それが母親にも伝わり、その子は退塾した。
その話を聞いて先輩講師が「肯定打ち消し法」を教えてくれた。
「そういうときはこう言うんだ。確かに先生は今『やめてしまえ』と言った。でもなぜそこまで言うかわかるか。おまえのことを本気で心配しているからや。このままだと本当にやばいぞ。でも今から本気を出せばまだ間に合う、と」
発言したことを肯定したまま、その本心を説明して打ち消すのだ。
「人を生かすも殺すも言葉ひとつ」とよくいわれる。言葉を磨くのは人と関わる全ての人に必要だ。はて? 言葉は何で磨かれるのだろう。きっと「磨かなくては」と気付いた、その心ではないかと思う。
私たち「教員」は、まさに、「人と関わる仕事」です。
「言葉を磨かなければ!」と痛感した文章でした。
私たちは、この仕事をしながら「言葉を磨いているだろうか?」
どんな内容の授業をしても「言葉が磨かれていなければ・・・・・・・・・」
内容を伝えることはできても、その教科やその人を好きにしたり、尊敬されたり
することは?????
「気持ちがあれば?」「気持ちは伝わるものだ?」という世界もあるかもしれませんが、
基本的には「言葉に出して伝えること」が基本になります。
何度も言いますが、我々教員は「言葉を磨かなければ!!」
ともに、頑張りましょう!!
きっと、先生方を尊敬し、憧れて「先生志望!!」の若者が増えてきますよ!!
がんばれ!!先生たち!!