「動的平衡」から見えた生命の見事な仕組み
青山学院大学教授 福岡伸一より
「動的平衡」では、「分解」と「合成」が絶え間なく行われます。それによる細胞の入れ替わりによって、私たちの体は1年も経つと物質的にはすっかり入れ替わってしまうのです。
では、そうやって1年で体内の細胞がすべて入れ替わるにもかかわらず、「私は私で、あなたはあなた」と、どうして言えるのでしょうか。
それは、私たちの体に「相補性」という働きがあるからです。
細胞にしても細胞内の物質にしてもそうですが、すべて機械のように「はめ込まれているだけ」ではないのです。
すべての細胞はジグソーパズルのように、お互いに支え合い、お互いに他を律しながら存在しています。これが「相補性」の働きです。
ですから、たとえ一つのピースが失われても周りのピースがそれを支えるのです。
そして同時に、その失われたピースの位置や大きさ、形までがすべて記憶されていて、それにしたがって新しいピースがつくられ、またそこにはめ込まれていくのです。
こうした相補性が保たれている限りにおいて、私たちの体は絶え間なく同時多発的に交換されつつも、ジグソーパズルの絵柄全体としては変わらないでいられるのです。
だから「私」という存在はそのまま変わらずに保っていられるというわけです。
このように動的平衡の観点から生命を捉え直すと、生命には非常に見事な仕組みが働いているということが見えてきたのです。
ところで、私が行った「GP2」遺伝子の実験(※福岡先生は「GP2」=「グリコプロテイン(糖タンパク質)2型」という遺伝子を発見し、その遺伝子を持たないマウスをつくることで、GP2がどのような役割を果たしているのかを調べようとしました。しかしマウスが異常をきたすことはなく、壁にぶつかってしまったのです)について、20年という年月を経てようやく分かったことがありました。
たとえば、サルモネラ菌などの悪いばい菌が体内に侵入してくることがあります。その時「GP2」は、免疫細胞に警戒を促す役割をするのです。
問題は、なぜ私の実験ではそれが分からなかったのか、です。それは私が研究者としてある種の「落とし穴」にはまっていたからなんです。
私が育てた「GP2」遺伝子のないマウスは、莫大なお金と時間をかけてつくった非常に貴重なものです。ですから私は、完全無菌の部屋で、完全消毒の餌だけを与えながら大切に育てました。
だからマウスは、私の実験中にはサルモネラ菌に出合わなかったというわけです。
もし、もっときれいでない環境で実験をしていたら、マウスはきっとサルモネラ菌に感染し、私もその「GP2」遺伝子の役割に気付けていたことでしょう。
私はあらためてこの実験から学びました。「可愛い子には旅をさせよ」という教訓を(笑)。
先日もつぶやきましたが、
社会に出てからのことを考えると、大人や親や教師が「子どもたちを守りすぎ?」
たり、失敗させないように先回りしすぎたりすることは・・・・??
可愛い子に旅をさせることにはありません!
子どもたちを「可愛がる?!」ということについて、今一度考えてみたいものです。
世の中は「きれいごとばかり」ではいかないのだから・・・・!
よろしくお願いいたします!