「脳は何歳からでも伸ばすことが できます!」 脳医学者 瀧 靖之 氏 講演より
今日は、最新の脳科学の研究で得られた知見から、人の脳はどのように発達するのか、そして、何をすることが脳にとって重要なのか、ということをお話ししたいと思います。
●子どもたちのおかげ
脳がどうやって発達していくのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。子どもたちが医療機関に来ることはあまりありませんので、若い人のデータがなかなか取れなかったからです。
そのため、私の所属する東北大学加齢医学研究所は、子どもたちの脳の発達の研究を世界に先駆けて行いました。
でも、脳の断面図を撮影するMRIに子どもが入ると、「暗くて怖い」と言うのです。ですから、私は30分くらい子どもと一緒に遊んで仲良くなって、それから「宇宙船に入ろう」などと言って、MRIに入ってもらいました。
撮影後は、脳についてのお話をして、撮影した脳の写真と感謝状をプレゼントしました。
子どもたちが研究に協力してくれるおかげで、脳科学は発展しているのです。
このように研究を進めながら、脳のさまざまなデータを集めました。それで何が分かったかというと、「脳は全てがいっぺんに発達するわけではない」ということです。脳は場所によって発達のピークが異なることが分かってきました。
ある部分は、生まれてすぐに発達のピークを迎えます。その一方で、思春期くらいになって発達のピークが来る部分もあります。
子どもたちの脳は、現在進行形でダイナミックに発達しているのです。
子どもの脳の発達においてどういうことが起きているかというと、脳の中で道をたくさんつくるんです。これは例えると「一般道路」です。一般道路を、ネットワークのようにたくさんはりめぐらせます。
道をたくさんつくると、いろんな事を吸収して学べるようになるのです。
一方で、道が多いと維持費がかかります。エネルギーをたくさん使うんです。そのため、あるタイミングでよく使う道を「高速道路」のように太く頑丈にして、使わない道を壊していくんです。つまり、効率化を重視するようになります。
このようなことが分かると、「何歳くらいに何をすると子どもの能力の獲得に良いのか」ということも分かってきました。
●脳の成長に伴う「始める時間」
人の脳は、生まれて最初に視覚や聴覚といった「感覚」に関わる部分が発達します。
この頃に大事なのが「愛着形成」です。笑顔で子どもを見ながらたくさん抱きしめてあげる。これが子どもの脳の発達に非常にいいんです。
生後6~8か月になると、育った国の言葉を聞き分けられるようになります。
ですので、生後半年から絵本の読み聞かせが効果があるといわれています。家族とふれ合いながら読み聞かせることで、子どもは言葉の発音やリズムを少しずつ覚えていきます。
2~3歳になると、外の世界に興味を持ち始めます。
この頃は、知的好奇心がどんどん芽生えてきますので、図鑑を与えるのがいいです。
この「知的好奇心」というのは脳にとってとても重要なものです。次回詳しくお話しします。
3~5歳くらいになると、運動に関わる部分の発達がピークを迎えます。
この頃から楽器演奏や細かい体の動きを伴う運動(例えばバレエや卓球)を始めると、非常に伸びるといわれています。
8~10歳は、英語など外国語の習得にいい時期です。
この頃は、少しずつでいいので、英語(外国語)を聞いたり話したりするといいでしょう。
このように、脳には何かを始めるのに最適なタイミングがあるのです。
●脳はあきらめない
こういうお話をすると、「うちの子は10歳になったからもう手遅れなんじゃないか」などと思われる方がいるかもしれません。
でも、何歳から何を始めても、確実に伸びます。
確かに3歳からピアノを始めるとすごく伸びます。でも、10歳から始めようが、30歳から始めようが、70歳から始めようが、遅いということはありません。
何が違うかというと、脳が自らを変化・成長させる能力「可塑性(かそせい)」です。
可塑性は、子どもの頃が最も高く、年を取ると少しずつ下がってきます。つまり、あるレベルに達するまでに練習や勉強を要する時間が増える、ただそれだけなんです。
ですから、ピアノでも英語でも、何歳から始めても確実にできるようになります。
時間が増えることは大変といえば大変ですが、脳は何歳になっても、使えば使うだけどんどん進化するのです。
「本人があきらめないと、脳もあきらめない!」と私は考えています。
孫の成長を見ていて、「なるほどなあ!」と思い当たることがたくさんあります。
「諦めたら、そこで終わり!」
ある本に「死ぬまでに、やりたいことを100個」書けますか?と書いてありました。
第2の人生を前に、「100個くらい簡単!!足りないくらい?」という人生を
自分は送ったのだろうか?
今からでも「遅くない!」
諦めずに「脳を使った、やりたいことをどんどんやっていこう!!」と心に誓いました。
みなさんは、どうでしょうか?