文字職人 /「粋塾 岐阜校」代表 杉浦誠司
僕は今、「夢と笑顔を与える文字職人」として、いろんなところで書のパフォーマンスをしています。でも一番力を入れているのは若者の育成です。
「粋塾」という不登校自立支援の施設の代表をしているほか、全国各地の小中学校でお話をさせていただいたりしています。
粋塾には、一般的に「いい大学」に行った「優秀」といわれる子どもたちが多くやって来ます。早稲田、慶応、東大…だから勉強はめちゃくちゃできます。
ところが、ある日突然引きこもったり、リストカットしたりして自分を痛めつける子がすごく多いのです。
これは育った環境によるものが大きいです。多くの子が、教育熱心な親御さんにこんなことを言われて育っていました。
「友達が遊んでいるときに勉強しなさい。そこで差がつきます。『全然勉強してない』なんて言っていても信じてはいけません。あなたを蹴落とすために言ってるんだよ。友達を蹴落として上にいきなさい」…そんなギスギスした学校生活は苦しいし、友達だってろくにできないですよね。
でも、彼らは基本的に心優しいんです。親御さんのことが好きなんですよ。だから両親の言うことを信じたい、だけど自分は苦しい。その板挟みです。
そうしてにっちもさっちもいかなくなって、「自分は生きている、自分は間違ってない、自分は生きる価値がある」と感じるために、体を傷つけるんです。単に死にたいからやっているわけじゃないんですよ。
そういう激しい心の振り子を安定させたいと僕は思っていて、そういう大学生たちと一緒に10日間、海外を旅することにしています。
●僕らと一緒に旅しようや! ある時、「息子が2年間引きこもっていてどうにもならない」というお母さんから相談を受けたことがありました。
「じゃあ、その子も海外研修に参加してもらいましょう」
「でも引きこもってますから…」
「じゃあ、まずその子に会わせてもらえませんか?」
「いいですけど引きこもってて…」
「じゃあその子の部屋の前に行かせてください」ということで、その子の部屋の前まで行きました。
「おーい、僕らと一緒にさ、海外10日間行かないか?」と呼びかけましたが、返事はありません。でも聞こえていると分かっていましたから、僕は構わず続けました。
「あのな、君がそのへんのコンビニに行くようになってもきっと人生は変わらへん。でも、僕らと10日も海外に行ったら、変わる可能性がある。自分で決めたらいいよ。人生変えたいと思ったらいつでも連絡してきてよ」。そう言ってドアの隙間に名刺をすっと入れました。
それから長い間、彼から連絡はありませんでした。そして僕も忘れかけていた頃、ようやく震える声で電話がきました。
「本当に変わるんですか。僕の人生」
「この時点で7割確定や。あとの3割は君がどうするかだぞ。来いよ、待っとるよ」
数日して、彼は僕のところに来てくれました。全身がひどいアトピー性皮膚炎で、あちこちに血がにじんでいました。
僕も小学校の時にアトピーでいじめられていたことがあったので、彼の苦しみの一端が痛いほど分かりました。
彼は指先まで皮膚炎になっていたので、握手するのも嫌がるんです。でも、来てくれたことが僕はとにかく嬉しかったので、「いいよいいよ。一緒に旅しようや」と彼の肩を叩きました。
海外研修で、僕らは一人一人に違うミッションを出します。
当然、その子にもです。「君のミッションは、この大通りを一人で向こうまで渡ることや。ただしこのボードを首から下げて渡ってもらう」。そう言って、彼に「フリーハグ」と書かれたボードを手渡しました。
「無理です」
「いや、やってみないと分からんぞ」
「何でこんなことさせるんですか! こんな僕と誰もハグなんかしてくれないですよ」
「とにかく一回やってみなって!」という押し問答を経て、その子は本当に怯えたように、逃げるように通りを歩き始めました。
そしたら、ボードに気づいた通行人の女性が、「ハイ!」って、ハグしにきてくれたんですよ。
彼はものすごくびっくりしていました。でもすぐにめちゃくちゃ嬉しそうな顔になって「ありがとうございます、ありがとうございます」って喜びました。そうしたらその姿を見て、別の人も「ハイ!」って腕を広げて歩み寄って来たんです。
見ててジーンとしましたね。僕は他の仲間と一緒に通りの反対側へ先回りして、見事にミッションを達成した彼を迎えました。そして全員で彼をハグしたんです。
「ほらな、みんなハグしてくれたやないか。君が思ってるほどみんな外見なんて気にしとらへん。大丈夫や」。そう言いながら、僕も彼と一緒にボロボロ泣いていました。
そして今、彼はどうしていると思います? なんと講演活動をするようになったんです。「2年間引きこもっていた僕でも変われる」って。
久しぶりに彼と再会したら、びっくりするぐらい垢抜けた男性になっていました。
「すごいなぁ、表情も全然違うやんけ。人生楽しそうやな」
「最高ですよ。でも新しい悩みができたんです。アトピーが治っちゃいそうなんですよね」
「どういうこと?」
「アトピーがひどかった時の方が、『こんな僕でも』の部分に説得力があったんですよ(笑)。最近あんまり信じてもらえないんです」って(笑)。
そんな風に笑えるくらいにまで変わっていたんです。
先日、本校でも「杉浦誠司さん」の公演を人権週間にしていただきました。
杉浦さんの「直筆」の詩も職員室前に飾る予定です。
「文字」を見ているだけで「感じるもの」があります。
そんな人に「一人でも多く」なってほしいものです。
どんなことでもいいのです。
「人様のために何かを!!」と考えられる大人に!!
その場に本校が少しでも関われれば・・・・・・。
どうせ一度の人生なのだから!!
がんばれ!!日中健児!!