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2020/01/16

1月16日(木) 「この世界は、目に見えない・・・」

Tweet ThisSend to Facebook | by 日進中学校管理者
「この世界は、目に見えない小さな命で満ちあふれていた」
青山学院大学教授 福岡伸一氏の講演より
 
 私は少年の頃、虫が大好きな「昆虫少年」でした。
  植物に産み付けられたアゲハチョウの卵を取ってきてはそれを幼虫にして葉っぱを食べさせて育てました。
  すると、ある日突然さなぎになって、2週間ほどするとそこから見事なアゲハチョウが出てくるんです。私はその一瞬のシーンを楽しみにしながら、固唾を飲んで見守り続けました。
  「生命とはなんと美しいのだろう。なんて精妙なのだろう」
  そんな驚きとワクワクした気持ちで日々を過ごしていました。
  私は昭和の生まれです。インターネットも携帯電話もない中、身近な自然に心を奪われました。いつも虫ばかり探し、人間の友だちはいませんでした。
  ある日、母が顕微鏡を買ってくれました。きっと、「友だちとの話題作りになるのでは?」と思ったのだと思います。
  教育用の安い顕微鏡でした。それでもいろんなものがよく見えました。
  たとえばチョウの羽を見ると、鱗粉という小さなモザイクタイルのようなものが色鮮やかに敷き詰められています。拡大すると、一つひとつが小さな桜の花びらみたいでとてもきれいです。
  私はすっかり顕微鏡の中の小宇宙の虜になりました。だからますます友だちがいらなくなってしまいました(笑)。
 当時、まだ「オタク」という言葉はありませんでしたが、まさに私は「虫オタク」「顕微鏡オタク」になり、そのミクロの世界に没入していったのです。
  「顕微鏡オタク」の私は、しばらくすると顕微鏡の歴史をたどりたくなりました。
  顕微鏡の「源流」はどこにあり、この装置をつくり出した人は一体どこの誰なのか、それを知りたくなったのです。小学4年生か5年生の時でした。
  今だったらちょっとネットで調べれば「グーグル先生」がすぐに教えてくれますよね。しかし当時は本で調べるしかありません。ですから私は近くの図書館に行きました。
  本ですから、答えにたどり着くまでにいろんな「道草」があるのです。でもその「道草」が、学びにとって実はすごく大事なんです。

  図書館に通い詰めるうち、私は書庫の存在を知りました。
  書庫には4階くらいまでぎっしり本が詰め込まれていて、「日本十進分類」によって分野ごとに並べられていました。
  虫や顕微鏡の本は、誰も来ないようなかなり奥まったところにありました。私は興奮しながら本を探しました。
  探していると、いろんな背表紙が私のことを呼んでいるように感じました。難しそうな本や分厚い本、読み方の分からない漢字の本、不思議な片仮名の本、いろんな書名が私の目に入ってきました。
  それもある意味、私にとっては「読書」でした。「こういう本があるのか。いつか読んでみたい」と思う段階で、読書はもう始まっていたのです。

  『微生物の狩人』(岩波書店)という微生物学に携わった人たちの伝記を集めた本を見つけました。そこに、顕微鏡をつくり出した人のことが書かれていました。
  その人は、1632年にオランダの「デルフト」という小さな町に生まれた「アントニ・レーウェンフック」という人でした。
  でもこの人、プロの科学者でも大学の先生でもありません。自然がとても好きで、工夫が好きで、その結果、顕微鏡をつくってしまったのです。

1-1hukuokashinichi.jpg
 彼がつくったその顕微鏡は、現在の顕微鏡とは似ても似つかない格好です。長さ10センチくらいの「金属のへら」みたいな形です。(写真)
  そこに高度な方法で磨き抜かれた球形のレンズがはめ込まれ、このレンズを通すと300倍くらいの倍率で見えるのです。

  レーウェンフックは、手当たり次第に自分の興味があるものをその顕微鏡で見ていきました。
  その中で気づいたのが、「人間の体は細胞という小さなユニットからできている」ということでした。
  次に、彼は町を流れる運河の水をすくって見てみました。
  肉眼では澄んだただの水に見えるのに、顕微鏡では色とりどりの不思議な形をした小さな生命体がくるくる踊りながら泳ぎ回っているのが見えました。
  それは今で言う「微生物」です。彼は微生物を世界で初めて見たのです。
  「この世界は目に見えない小さな命で満ちあふれている」と、世界で最初に気が付いたのがレーウェンフックだったのです。
  血液も見てみました。粒々が絶え間なく流れている様子が見えました。それは白血球や赤血球でした。
  犬や鳥の精子も見ました。これが生命の出発点であることも、彼は発見していきました。
 こうしてアマチュア科学者であるレーウェンフックは、次々と「生物学上最も重要な発見」と言っても過言でないほどのものすごい発見を成し遂げていったのです。
  私は、本を読みながら彼の人生を追体験し、とても興奮しました。
  そして、「かつてこんなに素晴らしい体験をした人がいたんだ。自分もこんな発見をしてみたい」と思いました。
  これが、私が「研究者になろう」と思った出発点になりました。

私も、小さな頃に「動物図鑑」「植物図鑑」を買ってもらい、虜になりました。
誕生日に「顕微鏡」を買ってもらい、虜になりました。
そして、セミ採りを友だちとしながら「標本にするセット」を買ってもらい、虜になりました。
地図帳を買ってもらい、「国旗」「国名」などに興味を持ちました。
そして、友だち同士で「地名を出し合い」世界中を旅した気持ちになりました。
また、「世界で一番高い?大きい?深い?広い?長い?」などの「山」「海」「湖」「川」「国」など
を問題で出し合い、みんなの興味がない「世界で2番目の・・・・」を覚えるようになりました。
虜にさせるものは「人生を豊かにしたり、楽しくしたり」夢中にさせる何かがあるようです。
きっと、夢中になるもの、虜になるものを持っている人は「道草」も多くしているのでしょうね。
「道草」の人生を送りたいものです。
真っ直ぐ!一直線!!最短距離!がよいとは限りませんよ!!人生は・・・・。
大人になるまでに「虜になるもの」を見つけたいものですね!!
さて、自分自身は「何があるのだろうか?」自分自身を振り返る大人の多いことか?

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