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2020/10/26

【日進中】10月26日(月)日本購読新聞

Tweet ThisSend to Facebook | by 日進中学校管理者
理科の教師が「変態の翼」を 広げて羽ばたいたら、こうなった
講演家/筆文字作家 小玉宏より
 
 私は元々中学校の理科の教員でした。理科というのは命について考える学問です。当時、私は生徒に「命の大切さ」や「命は繋がっているんだ」ということを語ってはいましたが、私が本当にそのことを実際のフィールドで体験したのかというと、していませんでした。
  今、農業を通して初めて理科の教員としてのスタートラインに立てたような気がしています。
  私と農業の接点は教員時代にあります。私は宮崎県で教員をしていたんですが、宮崎県では、教員になると必ず一回はへき地に赴任しないといけないシステムになっています。私にも35歳の時、その辞令が来ました。赴任した先は宮崎県西都市の銀鏡(しろみ)地区という山奥の集落でした。
  そこは、老若男女合わせて280人くらいの集落です。子どもなんて数人しかいないんですよ。
  なぜ学校が成り立っているのかというと、「山村留学」をやっているんです。「この自然しかない土地で豊かな人間性を育みましょう」という触れ込みで募集をかけると全国各地から子どもたちがやってくるんです。そういう学校だったんです。
  その集落が私の人生を変えることになろうとは夢にも思っていませんでした。

  最初は「田舎暮らしを満喫しよう」みたいなノリでした。行ったら本当にお年寄りばかりでした。
  家庭訪問をすると、話をする相手は親御さんじゃなく、「里親さん」です。子どもの面倒を見ているのはみんなじいちゃんばあちゃんばかりです。だから、勤務した3年間は、生徒だけではなく集落のお年寄りとも深いお付き合いをすることになりました。
  赴任して間もない4月のある日、地域の飲み会があり、私の隣に座ったじいちゃんが声を掛けてきました。「おまえ、独身か。ちゃんと食ってんのか」って。
  「食べてます。この前生まれて初めて料理もしました」
  そしたらそのじいちゃんが「おまえ、本当にうまい米を食ったことがあるか」と聞くんです。
  「本当にうまい米」といきなり言われても、お米はどれも美味しいですよね。答えに困っていると、「おまえは本当にうまい米を食べたことがないんだな。俺は本当にうまい米を知ってるぞ。それは日本一うまい米だ」と言うんです。
  「そんな美味しいお米があるんだったら食べてみたいです。どこで売っているんですか?」と聞いたら、「それはわしが作ってるんじゃ」と言うんです。
  心の中で「そういうオチかよ。そりゃみんな自分が作った米が一番うまいと言うわな」と思いました。
  私もお酒を飲んでいたので調子に乗って、「日本一美味しいお米を作っているのはあなたなんですか。そのお米、食べたいですね」と言ったら、そのじいちゃんは言いました。
  「だったら食わさないわけにはいかんな。おまえだけ特別にくれてやる。ほかの奴に言うとうるさいから言うなよ」って。それが4月のことでした。
  そんなこともすっかり忘れていた秋口、そのじいちゃんがやってきて、「おまえ、いつになったら取りに来るんじゃ!」と私の家に怒鳴り込んできました。
  「何のことですか?」と言ったら、「おまえ、あのとき日本一うまい米を食わしてやると言ったの忘れたのか!」と。
  それで「そうでした」ということで取りに行きました。
  30キロのデカイ袋がありました。
  「お米がめっちゃ茶色いじゃないですか。これ、どうやって食べるんですか?」
  「おまえ、玄米も見たことないんか。近くに農協の精米所がある。そこで5キロくらいずつ精米して食べろ。精米仕立てが一番うまいんだ」と言うんです。

  で、そのじいちゃんの米を精米して食べました。土下座するくらい美味しかったんです。ご飯をおかずにしてご飯が食べられるという感覚です。分かりますか。あまりの美味しさに気が付くと、炊飯器を抱えたまま、しゃもじで食べていました。
  すぐじいちゃんの家に行きました。「何でこんなにうまいんですか。あり得ない美味しさですよ。マジで日本一ですわ。秘密を教えてください」と言ったら、「おまえだけ特別に秘密を教えてやるから付いて来い」と言うんです。
  じいちゃんの田んぼに行きました。その地区は平地がないので、「棚田」といって山を切り開き階段状に田んぼを作っているんです。一つひとつの田んぼが細長いので、機械が入らない。だから手植えをし、手刈りをし、天日干しをしているお米だったんです。
  「うちの米は天日干ししている。この天日干しがお米を美味しくする秘訣だ。今はこの手間を惜しんでみんな乾燥機で乾燥させている。いいか、お米作りは最後にお天道様の力で乾燥させて初めて完成するんじゃ。お天道様をなめてもらっちゃ困る」とじいちゃんが言いました。
  「すげぇ!」と思いました。
  「そうか、お米というのはお天道様の力で育ち、最後もお天道様の力で乾燥させたお米が本当のお米の味なんだ」とじいちゃんから教わりました。
  その時、私は決心しました。「教員を退職したら天日干しのお米を育てよう」と。
  その後、へき地での勤務を終えて、いろんな学校に行き、いろんな経験をしました。
  でも、不思議です。40代で退職して、今農業をやり、天日干しのお米を作っています。35歳のあの日、決心したからです。
  あの時の思いが現実になって10年後に私の人生に落ちてきたんだと思っています。本当に不思議です。

私も理科教員です。
残念ですが、農業をしていません。
大学時代に農家の友達の家で「田植え」「稲刈り」を手伝った程度です。
天日干しのお米を知っていたら「農業」に転職していたかもしれません。
退職をしたら「農業」も選択肢の一つかもしれませんね。
まだまだ、考えが「甘い」と思いますが・・・・。
しかし、「お天道様の力」だけは、信じています。
やはり、太陽系の惑星です。
すべては、・・・・・。


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