NPO法人 NGO GOODEARTH代表 藤原ひろのぶ氏の講演より
僕が環境問題や貧困問題についての活動を始めたのは、30歳の頃にギニア共和国
という国に行ったことがきっかけでした。
僕はその当時、北海道で農業をしていたのですが、そこでギニア人の友だちが
できたんです。それから「アフリカってどんなところだろう」という好奇心が
抑えきれず、彼が帰国する時に同行してしまいました。
ギニアでしばらく過ごしていると、炎天下で朝から晩まで働く子どもたちや、
よくテレビで見るような極度の飢餓状態の子どもたちに出会い、日本で育ってきた
自分との境遇の違いに驚愕しました。
こういった発展途上国に比べると、日本の環境は本当に素晴らしいです。
必要なものは何でもあり、どこに行ってもめちゃめちゃ清潔です。
人が倒れたら10分もせずに救急車がやってきますよね。
実はこんな豊かな国はほとんどありません。
けれど僕らはずっとここで暮らしているから、その豊かさを「当たり前に誰もが
持っているもの」という感覚でいるのです。
ギニアの人々の現実を目の当たりにした僕は「理不尽だ」と感じました。
そして「かわいそう」というよりも、「なんでこんなことが起きているの?」
と思いました。
そこで、発展途上国の抱える様々な問題について調べました。
すると「理不尽だ」と感じたことの原因が僕自身の生活にあると分かってきました。
海外の貧困と僕たちの生活との繋がりが現れている事例の一つに
「ファストファッション」(安価・大量生産を特徴とする衣類)について
の問題があります。
僕が支援を行っているバングラデシュを例に見てみましょう。
ここでは縫製工場がたくさんあり、立ちっぱなしの重労働が行われています。
僕も大学生時代に立ち仕事をやったことがあるから、そのつらさが分かります。
当時僕はパン工場で働いていて、次々に流れてくるメロンパン一つひとつに
ひたすらチョコマーブルを振りかける仕事をしていました。
これが本当にきつくて、「機械でしろ!」と思っていました。
でも、深夜のバイトだったこともあり、時給は1400円でした。
一方、バングラデシュの縫製工場で働く人たちの時給はたったの17円です。
1か月で7000円。現地での家賃は4000円、お米を買うと25キログラムで3000円です。
つまり、お米を買って家賃を払ったら何も残らないくらいの給料なのです。
バングラデシュの僕の知り合いにミイムちゃんという脳に障がいを負った子が
います。
この子の障がいは小さい頃の栄養失調が原因でした。
彼女の両親は縫製工場でずっと働いていましたが、それでも我が子に十分な食事を
与えることができませんでした。それが、この国の現状です。
こうして人件費の安く済む発展途上国で製造された服が、「ファストファッション」
として日本にも輸出されています。日本での輸入量は、年100万トンほどです。
しかし同時に同じくらいの量の服を廃棄しています。
「フェアトレード」(発展途上国の物品を適正な価格で輸入・消費すること)と
いう言葉があります。素晴らしいことですが、よく考えればこれが、当たり前
であるべきはずです。
僕たちは、過剰な量のものに溢れた生活が「発展途上国から搾取することで
成り立っている」と、気付かなければなりません。
日本に住む僕たちは、豊かになり過ぎて「ものは無限にある」と錯覚しています。
しかし、世界全体では「10億人近くの食事の状態がよくない」といわれます。
この人たちをサポートするために国連世界食糧計画(WFP)が1年間で集めている
支援のための食料の量が約350万トンです。
一方、日本での年間の「食品ロス」(食べられるにもかかわらず廃棄される食品)
が643万トンです。支援のために世界で集められている食料の2倍近くを日本だけ
で捨てているということです。
僕が食料の支援活動をしていることに対して、ときどき「えらいですね」と
言ってくださる人がいます。でも僕は、自分の活動について「ただ奪い過ぎたもの
を返しているだけだ」と思っています。
どこで生まれても子どもたちには食べる権利があるはずです。
そしてそれを守るのは、親や現地の政府だけではなく、僕たち大人全員の責任だ
と思うのです。
これまでお話ししたように世界的に大きな問題を紐解いていくと、自分たちの
目の前の生活に繋がっています。だから、まずは当事者意識を持っていただきたい
のです。
ただし、「大変な問題だ」と不安を募らせて、今までの生活の仕方を無理をして
まで極端に変える必要はありません。
僕たち一人ひとりが、目の前のちょっとした選択を少しずつ変えていくことが
大切なのです。
そうして一人ひとりの選択を積み重ねていくことで、きっと世界的な重大問題も
解決していくことができると僕は信じています。
ずっと、「当事者意識を持ちましょう!」と言われ続けています。
しかし、これが人間の現状です。
わたしも、一人ひとりの選択を積み重ねていくことで、きっと世界的な重大問題
も解決していくことができると信じています。
大きな変化はすぐには見られませんが、まずは足元の「できること」を積み重ねて
行くしかない!そして、そう感じている人が「行動で!」「声を出して!」行く
しかない。このような問題に、近道なんてない!と思っています。
いつも言われますが、「豊か過ぎる」状態は、果たして幸せなのかどうか?
きっと、賢明な人たちは今回の「新型コロナウィルス禍」で同じように感じた?
のではないでしょうか?
親愛なる日中健児のみなさん!!
難しいことですが、「豊かさ」の反対にある「貧しさ」を少しでも疑似体験できる
ことを願っています。小さな困難でもいいのですよ!何でも当たり前にある!という
幻に気をつけましょう!!