中部支局長 山本孝弘
詩人は感性の塊だ。その研ぎ澄まされた感性で世界を捉え、それを書き表すときには言葉の感性が光る。今月、詩人・里みちこさんの記事が掲載された。記事から垣間見える里さんの感性に心がどよめいた。里さんは、ゴミになるような物を使って作品を作る。そのことをこうおっしゃっていた。「あらゆる『もの』を生かすとき、私のいのちも生かされ、『物語』が生まれていく」
人生を懸けて、まさにそれをやっている人を知っている。高本スーさんというアメリカ人だ。彼女を知ったのは先日NHKで放送された『人生レシピ』というドキュメンタリー番組である。スーさんは夫とともに2001年に来日。4人の養子を迎えて兵庫県で暮らしていた。来日10年後に東日本大震災が起きた。スーさんは何度も石巻にボランティアとして足を運んだ。
「もっと本格的に支援するためには移住するしかない」とスーさんは決意した。だが、牧師の夫を除き、家族は大反対だった。長男は転校で友だちと離れることを嫌がった。説得を続けるうちに次女が寝る前に被災地の子どもたちにお祈りをするようになった。そして上の子2人はスーさんの思いに動かされ、ボランティアに同行。現地を見て移住を承諾した。
当時の石巻は、どこへ行っても瓦礫だらけだった。瓦礫の中に必ずあったものが割れた茶碗やお皿の破片だった。処分するしかないものだが、スーさんは違った。陶器を彩る綺麗な模様を見て、「アクセサリーに転化できないか」と考えたのだ。
「多くの人々は震災で仕事をなくした。それ以上に深刻なのは希望がないことだ」
スーさんは、子どもの送り迎えの時に一緒になる母親たちに声を掛けた。アメリカからアクセサリー作りの専門家を招いた。そして「希望」の意味を込めた「ノゾミプロジェクト」と名付けた彼女たちの活動が始まった。
試行錯誤の末、あの瓦礫と化した陶器の破片が、見事なアクセサリーに生まれ変わった。さらに生活の手段を奪われた被災地に雇用を生み出した。既に制作された5万個以上のアクセサリーのうち、8割は海外からの発注で、その国の数は40か国以上に上る。興味がある方は「ノゾミプロジェクト」というキーワードでネット検索してほしい。
この国に物が溢れるようになって久しい。私が子どもの頃は戦後の貧しい時代を知っている人が、周りにたくさんいた。まだ使えるものを捨てるなど、物を粗末にする戦後の日本の風潮を嘆く声がよく聞かれたものである。時は流れ、今の時代は昭和の頃よりリサイクルの意識は高まり、資源の回収も進んでいる。
2004年にケニアの環境保護活動家、ワンガリ・マータイさんがノーベル平和賞を受賞したのは、MOTTAINAI(もったいない)という言葉と共に、物を大切にする文化を世界中に広めたことが引き金になったのは間違いない。人々の意識は変わり始めているように思う。その中にあってスーさんたちの震災の瓦礫を活かす一歩進んだ発想に度肝を抜かれた。
「ノゾミプロジェクト」のメンバーはスーさんを除きみんな被災者だった。当初彼女たちには、ある共通の葛藤があったという。「これらのお皿や茶碗はみんな幸せな家庭の中にあったもの。アクセサリーになったとしても破片を見ることで被災者につらい思いをさせるのではないか・・・」そんな声にスーさんは言った。
「作っていてつらくなったらこのプロジェクトはやめましょう」
ところが次第にメンバーの心境に変化が表れ始めた。違うものに生まれ変わり、再び人に愛される存在になったことで、破片たちの喜ぶ声が聞こえてきたのだ。「このプロジェクトはリサイクル事業ではなく、ゴミを宝に変える『アップサイクル事業』です」とスーさんは言う。
「私たちは破片を生まれ変わらせるために、命を吹き込む仕事をしているんです」と。メンバーも同じ気持ちになり、自らその「宝」を身に着けるようになった。絶望の最中、夜空に輝く星に希望を見出したという詩人の里さん。瓦礫の中に眠る陶器の破片に希望を見出したスーさん。2人の豊かな感性は光となり、多くの人の心を照らしている。
誰もが災害には会いたくないものです。しかし、それは誰にも分りません。
もし、そのような災害にあった時「豊かな感性」で「アップサイクル?」
できるだろうか?「アップ」前向きにとらえ、尚且つ!!
そのままでは終わらない。
生き抜く逞しさとともに、「頭の柔らかさ?」が光ります。
目の前で起きたことを「どうとらえるのか?」「どう考えるのか?」
考えさせられました。
本日、執筆されていた「中部支局長 山本孝弘様」が先日、日進中学校に
お見えになりました。私が、日本購読新聞を購読し、紹介していることを
知ったようです。
その動きも「早い」ですね。
そのつながりを「即、行動に!」
話しをしていても「前向き」です!
人と人とのつながりも「アップサイクル」なのだと信じています。
どんどんつながることを!!
山本様、先日は遠路はるばる!お越しいただき、ありがとうございました!
今後とも、よろしくお願いいたします。